分析機器のバリデーションは外注すべきか内製すべきか?20年やってきた立場からの結論

分析機器のバリデーションは外注すべきか内製すべきか?20年やってきた立場からの結論

分析機器の適格性評価やキャリブレーションを、自社の手でやるべきか、それとも外に出すべきか。
この相談を、私はここ数年だけでも二十数社から受けてきました。

はじめまして、桑原明彦と申します。
国内の中堅製薬メーカーの品質管理部に18年在籍し、製剤試験室で溶出試験と分析法バリデーションを担当していました。
その後、受託製造企業(CMO)の品質保証部でGMP監査と機器適格性評価に5年ほど関わり、いまはフリーランスの立場で、中小の製薬メーカーや受託試験機関の文書整備をお手伝いしています。

この問いに対して、私はずっと同じ答え方をしてきました。
「外注か内製か」という問いの立て方そのものが、実は少しずれている、というものです。

理由は追って書きますが、先に結論だけ申し上げておきます。
法令は外部委託をはっきり認めています。
ただし、責任のほうは外注しても一切移動しません。
だとすれば、決めるべきは委託の可否ではなく、どこまでを自社の目で見るか、という線引きのほうなのです。

この記事では、法令が実際に何を求めているのかを確認したうえで、内製・外注それぞれで本当にかかるコスト、委託先を選ぶときの確認事項、そして機器の種類ごとの現実的な落とし所まで整理していきます。

まず、法令が何と言っているかを確認する

議論を始める前に、根拠になる条文を押さえておきましょう。
ここを曖昧にしたまま「うちは内製が原則で」と決めてしまうと、査察のときに説明ができなくなります。

GMP省令が求めているのは「校正」と「記録」の二つ

医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令、いわゆるGMP省令は、平成16年厚生労働省令第179号として定められ、2021年8月1日施行の改正で大きく手が入りました。
PIC/S加盟に伴う国際整合化が目的です。

試験検査設備については、第11条第1項第7号に規定があります。
求められているのは、試験検査に関する設備及び器具を定期的に点検整備してその記録を作成・保管すること、そして試験検査に関する計器の校正を適切に行ってその記録を作成・保管すること。
この二つです。

条文には「自社で行うこと」とも「外部に委託してはならない」とも書かれていません。
ここが出発点になります。

施行通知は外部委託を明示的に認めている

では実際のところどうなのか。
これを示しているのが、令和3年4月28日付で厚生労働省から発出された施行通知です。

第11条第1項第7号の逐条解説には、こう書かれています。

試験検査に関する計器について、校正を適切に行う(当該製造業者等の責任の下、適切な認証機関等に依頼して行う場合を含む。)とともに、当該校正に関する記録の作成及び保管を要するものであること

括弧の中が重要です。
認証機関等への依頼が明示的に「含む」とされている一方で、その前に「当該製造業者等の責任の下」という限定が置かれています。

つまり法令は、外注してよいかどうかという問いにはとっくに答えを出しているのです。
答えは「よい」。
そのかわり、責任は動かない。
条文の詳細は厚生労働省の施行通知で確認できますので、社内で議論する前に一度目を通しておくことをおすすめします。

2021年改正で「外部委託業者の管理」が独立した

もう一つ、2021年の改正で見逃せない変更があります。
第11条の5として「外部委託業者の管理」が新設されたことです。

改正前は、外部委託の管理は各社の運用に委ねられている部分が大きくありました。
それが独立した条文になったということは、委託先を選び、評価し、記録に残す一連の仕組みそのものが求められるようになったということです。

同じ改正では、文書及び記録の管理に関する規定も整理されました。
校正報告書や適格性評価の記録は、当然その対象に入ります。
外注した場合、業者から受け取った報告書のデータインテグリティをどう担保するかという論点が、ここで発生します。

適格性評価の4ステップと、実施主体の現実的な分担

法令の話が済んだので、実務の話に移ります。

分析機器の適格性評価は、DQ・IQ・OQ・PQの4ステップで構成されるのが一般的です。
量子科学技術研究開発機構(QST)が公開している分析機器の適格性評価の解説がよく整理されているので、定義はそちらの表現を借ります。

ステップ確認する内容現場での主な担い手
DQ(設計時適格性評価)購入前に、装置の機能性能仕様やメーカーへの要求事項を決定する自社(要求を出せるのは自社だけ)
IQ(据付時適格性評価)DQ要求を満たす装置が据え付けられたことを確認するメーカーと協力して実施
OQ(運転時適格性評価)DQ要求を満たす一般性能が発揮されていることを確認するメーカーまたは専門業者が主導
PQ(性能適格性評価)実試料の分析時に、必要な性能が維持されていることを確認する自社(日常の点検記録として)

この表を見ていただくと分かるとおり、実務では最初と最後が自社、真ん中が外部という分担に落ち着くことが多いのです。
私が見てきた現場でも、ほぼ例外なくこの形でした。

OQが外注に回りやすいのには理由がある

なぜ真ん中だけ外に出るのか。
先ほどのQSTの解説には、こう書かれています。

通常OQは点検項目が多く作業時間や費用がかかるため、PET施設が自ら行うことは困難です

これはPET施設についての記述ですが、事情は一般の試験室でもほとんど変わりません。
OQは点検項目が多く、専用の計測器と手順が要ります。
そしてその計測器自体にも校正管理が必要になる。

一方でDQは、自社が何を求めているかを言語化する作業ですから、外部に代行させようがありません。
PQも、実際に日々その装置で試験をしている人間でなければ書けません。

内製にしたときに、本当にかかるコスト

「外注費が高いので内製に切り替えたい」という相談は、毎年いただきます。
気持ちはよく分かります。
ただ、切り替える前に見積もっておいてほしいものがいくつかあります。

治具を揃えて終わり、にはならない

分かりやすい例として、溶出試験器を挙げます。
これは分析機器のなかでも、機械的な要求項目が飛び抜けて多い装置です。

USPが公開しているDissolution Procedure Toolkit(バージョン2.0、2010年)では、機械的校正の許容値がかなり細かく定められています。

確認項目許容値
ベースプレートの傾き直交する2方向それぞれで0.5°を超えないこと
シャフトの垂直性90.0°に対して偏差0.5°以内
センタリング360°回転させたときの最大値と最小値の差が2.0mm以内
バスケット/パドルのふらつきプローブチップの総偏位が1.0mm未満
回転速度50rpm・100rpmの両方で設定値±1rpm以内
攪拌機の高さ23.0〜27.0mm
試験液量指定値の±1%以内

これらを測るために必要になる道具を並べてみます。

  • デジタル水準器またはアルコール水準器
  • デジタル分度器
  • マイクロメータまたはノギス、デプスゲージ、隙間ゲージ
  • センタリングゲージ
  • ダイアルテストインジケータ(ランアウトゲージ)
  • タコメータ
  • 高さゲージ
  • 校正済みの温度計と計時装置
  • 溶存ガスメーター

初期投資として揃えられない金額ではありません。
問題はその先です。

これらの計測器そのものにも、トレーサビリティの取れた校正が必要になります。
測る道具の正しさを担保するために、また別の校正を管理しなければならない。
この入れ子構造が、内製化のコストを見誤らせる一番の原因です。

標準器のトレーサビリティについては、計量法校正事業者登録制度(JCSS)の枠組みを確認しておくとよいでしょう。
IAJapan(製品評価技術基盤機構 認定センター)が運営している制度で、産業技術総合研究所の計量標準総合センターが持つ国家計量標準につながる体系になっています。

人が辞めたときに何が起きるか

もう一つ、見積書には絶対に載らないコストがあります。
属人化です。

内製に切り替えた試験室で、実際に手順を回せる人間が一人か二人しかいない、という状態を私は何度も見てきました。
その人が異動したり退職したりした瞬間に、適格性評価が止まります。
止まったまま半年が過ぎ、査察の直前に慌てて外部に依頼する。
この流れは、本当によくあります。

内製化を検討するなら、担当者が二人抜けても回るかどうかを先に確認してください。
回らないなら、それは内製ではなく個人技です。

外注にしたときに、それでも残る仕事

では外注すれば楽になるのかというと、そう単純でもありません。
むしろここを誤解している現場のほうが、査察では危ないと感じます。

ベンダーの報告書は「受け取って終わり」ではない

EU GMPのAnnex 15「Qualification and Validation」は、この点をはっきり書いています。
2015年3月に公表され、同年10月から運用が始まった文書です。
PIC/S GMPガイドラインと同じ系譜にあり、日本の実務でも参照されます。

そのセクション2.6には、第三者のバリデーションサービス提供者からプロトコルやその他の文書が提供される場合、製造所側の適切な要員が、承認の前にその適切性と自社手順への適合性を確認すべきである、という趣旨が明記されています。
さらに、ベンダーのプロトコルは、使用前に追加の文書や試験プロトコルで補完してよいとも書かれています。

要するに、業者の報告書にそのまま判子を押す運用は想定されていないのです。
自社の要求事項に照らして中身を読み、足りなければ足す。
その作業は、外注しても自社に残ります。

原文は欧州委員会が公開しているAnnex 15で読めます。
英文ですが、分量は多くありませんので、品質保証の担当者は一度通して読んでおく価値があります。

再適格性評価の頻度は、自社で正当化する

Annex 15は、再適格性評価についても求めていることがあります。
適切な頻度で管理状態にあることを確認すること。
そして特定の周期で行う場合は、その周期の妥当性を正当化し、評価基準を定義すること。

つまり「業者が年1回と言ってきたので年1回にしています」では説明になりません。
なぜその頻度なのかを自社の言葉で書けなければならない。

参考までに、溶出試験器についてはUSPのDissolution Procedure Toolkitが、据付時と移設・修理時に加えて、おおむね6か月ごとの実施を推奨しています。
この頻度の考え方や、USPの性能確認試験(PVT)とFDAが求める強化された機械的校正の関係については、Dissolution Technologies誌に掲載されたMartinとGrayによる2011年の総説が詳しくまとめています。

なお、日本薬局方も溶出試験装置の機械的校正について参考情報を持っています。
最新版は第十九改正日本薬局方(2026年4月10日、厚生労働省告示第193号)ですので、社内SOPの引用元が古い版のままになっていないか、この機会に確認しておくとよいと思います。

校正記録もデータインテグリティの対象になる

外注した場合に案外抜けるのが、受け取った報告書の管理です。

バリデーション実施記録や試験記録は、データインテグリティの対象になります。
紙で受け取った報告書がキャビネットに放り込まれたまま、電子データのほうは業者側にしかない。
こういう状態は、査察で必ず突かれます。

PMDAは2025年3月から、GMP適合性調査の結果一覧を試行的に公表し始めました。
2025年9月からは不適合の連絡書も公表対象になっています。
詳しくはPMDAのGMP調査結果等の公表ページをご覧ください。

調査の透明性が上がるということは、記録の不備が外から見える形で残るということでもあります。
校正記録の管理は、以前よりも重い意味を持つようになりました。

委託先を選ぶときに、私が確認している6つのこと

外注すると決めたあと、では誰に頼むか。
私が同席する立場で必ず聞いている項目を挙げておきます。

  • 自社にある装置のメーカーをひととおりカバーできるか。溶出試験器だけでもメーカーは複数あり、混在している試験室では窓口が分かれるだけでコストになります
  • 使用する標準器のトレーサビリティを証明できるか。JCSS校正証明書の写しを添付してもらえるかどうかは、最低限の確認事項です
  • 報告書の様式が査察に耐えるか。そして自社の様式に合わせたカスタマイズに応じてもらえるか
  • 校正方法を選べるか。機械的校正だけか、性能確認試験まで含めるか、両方を組み合わせるかを相談できる相手かどうか
  • 規格外れが出たときにどう動くか。その場で調整して終わりにするのか、逸脱として報告書に残すのか。ここの運用は業者によって差があります
  • 会社として続くか。適格性評価は数年単位で同じ相手と付き合う仕事なので、事業の継続性は無視できません

最後の項目について、少し補足させてください。

この業界では、事業内容の拡大にともなって社名が変わることが珍しくありません。
取引先の社名が変われば、購買先マスタも、SOPに書かれた委託先名も、過去の校正記録との紐付けも、すべて見直しが必要になります。
査察で「この2020年の報告書を出した会社は、いまのどこにあたるのか」と聞かれて答えられないと、余計な説明を強いられます。

たとえば溶出試験器のバリデーションを長く手がけてきた会社のなかにも、2024年に社名を変更した例があります。
こうした変遷を把握しておきたいときは、日本バリデーションテクノロジーズ株式会社の社名変更の経緯をまとめた記事のような解説が実務の役に立ちます。
社名が変わっても検証という業務の中身は続いている、という視点は、記録の連続性を整理するうえでも参考になるはずです。

20年やってきた立場からの結論

ここまで書いてきたことを、一つの結論にまとめます。

外注か内製かという二択で考えている限り、この問題はいつまでも決着しません。
なぜなら法令は外注を認めており、しかも責任は外注しても移らないからです。
どちらを選んでも、自社がやるべきことは残ります。

ですから問いを置き換えてください。
「外注すべきか内製すべきか」ではなく、「どこまでを自社の目で見るか」です。

そして、この線引きは全社一律で決めるものではありません。
機器の性格によって、答えは変わります。

機器の種類現実的な落とし所
溶出試験器機械的校正は外注が現実的。治具の種類が多く、それ自体の校正管理まで抱えると割に合わない。日常の温度・回転数確認は自社で
HPLC・GCOQは外注、日常のシステム適合性試験は自社。使用頻度が高いぶん、自社側の点検記録の質が効いてくる
分光光度計波長・吸光度の確認は標準物質があれば自社でも回せる。年次の適格性評価は外注と併用する例が多い
天びん日常点検は自社が原則。定期校正は外部委託が一般的で、JCSS証明書の管理が要点になる
恒温槽・冷蔵庫温度マッピングは外注が効率的。日常のモニタリングは自社で完結させる

この表はあくまで私の経験則であって、各社の規模や品目によって当然変わります。
ただ、少なくとも「全部内製」「全部外注」という極端な設計にしている会社で、うまく回っているところを私は見たことがありません。

最後にもう一点。
外注を決めたなら、業者の報告書を読める人間を社内に一人は残してください。
数値の意味が分かり、規格外れを見つけたときに質問できる人。
その一人がいるかどうかで、外注は「委託」にも「丸投げ」にもなります。

まとめ

本記事の要点を振り返ります。

  • GMP省令の施行通知は、計器の校正を「当該製造業者等の責任の下、適切な認証機関等に依頼して行う場合を含む」と明記している。外注は法令上まったく問題ない
  • ただし責任は移らない。2021年改正では第11条の5として「外部委託業者の管理」が新設され、委託先を管理する仕組み自体が求められるようになった
  • 適格性評価の4ステップのうち、DQとPQは性質上、自社にしか担えない。外に出せるのは主にIQとOQの部分
  • 内製化のコストは治具の購入費では終わらない。計測器自体の校正管理という入れ子構造と、属人化のリスクを先に見積もること
  • 外注しても、報告書の適切性を自社で確認する作業は残る。Annex 15のセクション2.6が明確に求めている
  • 再適格性評価の頻度は、業者任せにせず自社で正当化できるようにしておく

分析機器の適格性評価は、地味で、時間がかかり、うまくやっても誰にも褒められない仕事です。
それでも、試験室が出すデータの信頼性は、結局のところこの土台の上に乗っています。

外注と内製のどちらを選ぶにせよ、自社が何を確認したのかを説明できる状態であれば、査察で困ることはありません。
逆に言えば、そこさえ押さえておけば、あとは各社の事情に合わせて自由に設計してよい領域です。

まずは自社の機器一覧を広げて、この装置は誰が何を確認しているのか、一台ずつ書き出してみてください。
その作業だけで、答えの半分は見えてくるはずです。

urtlew

コメントは受け付けていません。