卵子提供を受けるまでの流れを時系列で解説|カウンセリングから出産まで

不妊治療を続けてきて、医師から「自分の卵子では妊娠が難しいかもしれない」と告げられた。あるいは、何度も体外受精を試したけれど結果が出ない。そんなとき、初めて「卵子提供」という言葉を真剣に調べ始める方が多いと思います。
こんにちは、不妊治療ライターの高梨美和です。私自身、30代後半から5年間の不妊治療を経験し、体外受精でなんとか娘を授かりました。その過程で、卵子提供という選択肢にも何度も向き合いました。複数のエージェントに取材し、実際に治療を経験された方の話も伺ってきました。
卵子提供は、医学的にも倫理的にも、そして経済的にも、決して気軽に決められる選択ではありません。だからこそ「全体の流れがイメージできない」「どれくらい時間とお金がかかるのか分からない」という不安が、最初の一歩を踏み出せない原因になっていることが多いと感じます。
この記事では、卵子提供を受けるまでの流れを、初回の問い合わせから出産までの時系列でひとつひとつ解説します。期間の目安、費用の相場、日本と海外の制度の違い、エージェント選びで失敗しないための判断軸まで、2026年時点の最新情報をもとに整理しました。読み終えたとき、ご自身にとっての「次の一歩」が少しでも見えてくることを願っています。
目次
卵子提供とはどんな治療か
卵子提供は、自分の卵子では妊娠が難しい方が、第三者(ドナー)の卵子を使って妊娠・出産を目指す不妊治療です。具体的には、ドナーから採取した卵子に夫の精子を体外受精させ、できた受精卵(胚)を妻の子宮に移植します。妊娠・出産するのは妻自身です。
通常の体外受精との大きな違いは、卵子の由来です。生まれてくる子は夫とは遺伝的につながりますが、妻とは遺伝的なつながりがありません。一方で、妊娠期間を通して妻の体の中で育ち、妻が出産します。この点が、特別養子縁組や代理出産とは決定的に違うところです。
卵子提供が選択肢として浮かびやすいのは、たとえばこんな状況です。
- 卵巣機能の低下や早期閉経で、自分の卵子が採取できない
- 何度か体外受精を試したものの、自分の卵子では受精・着床が成立しない
- がん治療などで卵巣機能を失った
- 遺伝性疾患を子どもに引き継ぐリスクを避けたい
- 40代後半以降で、卵子の質的な問題が大きい
最後の手段としてだけではなく、医学的・年齢的な背景から夫婦で前向きに選ぶ方もいます。
卵子提供を受けるまでの全体像|10ステップの時系列
まずは全体像をつかんでいただくために、典型的な流れを10ステップで整理しました。エージェントやクリニックによって細部は異なりますが、おおまかな骨組みはこの順番です。
| ステップ | 内容 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|
| Step1 | 情報収集とエージェント・クリニック選定 | 1〜3か月 |
| Step2 | 初回カウンセリング・夫婦面談 | 1日〜数週間 |
| Step3 | 心理カウンセリングと熟慮期間 | 1〜3か月 |
| Step4 | スクリーニング検査 | 2〜4週間 |
| Step5 | 申込・契約 | 1〜2週間 |
| Step6 | ドナーマッチング | 1〜3か月 |
| Step7 | 夫の精子採取・凍結保存 | 1〜2日 |
| Step8 | ドナーの卵巣刺激・採卵・体外受精 | 2〜3週間 |
| Step9 | 胚移植のための渡航(または国内移植) | 数日〜1週間 |
| Step10 | 妊娠判定・経過観察・出産 | 約10か月 |
初回の問い合わせから胚移植までは、海外渡航型のエージェントを利用する場合で約3〜6か月、国内のJISART認定施設で受ける場合は倫理委員会の審査も含めて約1年から年単位になることもあります。
この後、各ステップで具体的に何が起こるのか、順を追って詳しく解説していきます。
ステップ別の解説|カウンセリングから妊娠判定まで
Step1 情報収集とエージェント・クリニック選定
最初の一歩は、ご自身がどの治療方針で進めるかの方向づけです。
選択肢は大きく3つあります。
- 国内(日本)の認定施設で受ける
- 海外渡航して現地クリニックで受ける
- 国内完結型(精子や受精卵を輸送する仕組み)を選ぶ
それぞれメリットとデメリットがあり、費用感や所要期間も大きく違います。最初の数週間から数か月は、複数のエージェントの説明会やオンライン相談を受けて比較するのに使うのが現実的です。
私が取材した経験者の方の多くは「最低でも3〜4社の説明を受けた」と話してくれました。広告の表現が華やかなところほど、実際の対応は淡白だったというケースもあります。焦らず、情報を集める時間を惜しまないことをおすすめします。
Step2 初回カウンセリング・夫婦面談
候補を絞ったら、初回カウンセリングを受けます。多くのエージェントでは無料、もしくは数千円から1万円程度の費用設定です。
このカウンセリングは、ご夫婦そろって参加するのが原則です。卵子提供は単独で決められる選択ではなく、夫婦の合意形成が治療の出発点になるからです。実際の現場では、奥さま一人で先に情報収集を進めていたケースで「夫の同意を得るのに数か月かかった」という声がよくあります。
カウンセリングで確認されるのは、おおむね以下のようなことです。
- これまでの不妊治療の経過
- 既往歴・現在の健康状態
- 卵子提供を選びたい理由
- 夫婦の関係と将来の家族像
- 経済面の見通し
- 子どもへの告知をどう考えているか
「答え」を出さなくても大丈夫です。むしろ、迷っている段階で相談する方が普通だと、私は取材を通じて感じています。
Step3 心理カウンセリングと熟慮期間
ここから先は、エージェント・施設によって対応が分かれます。
日本国内のJISART認定施設で受ける場合は、臨床心理士による心理カウンセリングを3回以上、3か月以上の熟慮期間を経ることが義務付けられています。詳しい要件は日本生殖補助医療標準化機関(JISART)の公式サイトで公開されています。
この期間は、夫婦が改めて自分たちの選択と向き合う時間です。気持ちが揺れたり、いったん立ち止まったりすることは、むしろ自然なこと。私が話を伺った方の中には、この熟慮期間中に「もう一度自然妊娠を試したい」と一時的に治療を中断して、半年後に戻ってきた方もいらっしゃいました。
海外渡航型・国内完結型のエージェントを利用する場合は、ここまで厳密な要件はありません。ただ、心理面のサポート体制が整っているかどうかは、エージェント選びの大きな判断軸になります。
Step4 スクリーニング検査
治療の安全性と成功率を高めるため、夫婦そろってスクリーニング検査を受けます。
主な検査項目は次のとおりです。
- 血液検査(血液型、ホルモン値、貧血、肝機能、腎機能など)
- 感染症検査(HIV、B型・C型肝炎、梅毒、クラミジア、HTLVなど)
- 妻の子宮内環境のチェック(子宮鏡検査、超音波検査など)
- 夫の精液検査
- 必要に応じて遺伝学的検査
費用は5万円から20万円程度が目安です。海外で受ける場合は、日本の検査結果が現地で再検査になるケースもあります。
Step5 申込・契約
検査結果に問題がなく、夫婦の意思も固まったら、正式な申込と契約に進みます。契約書には、料金、サポート範囲、追加費用が発生するケース、トラブル時の対応などが明記されているはずです。
ここで必ず確認してほしいことが3点あります。
- ドナーの卵が採れなかった場合の補償制度(別ドナーへの変更可否、返金規定)
- 為替変動や現地費用増加時の取り扱い
- 妊娠不成立だった場合の追加移植の費用
書面化されていない口頭の約束は、後でトラブルになります。契約書に書かれているかどうかが判断基準です。
Step6 ドナーマッチング
契約後、ドナーリストが開示されます。エージェントによって、開示されるプロフィール項目は異なります。
一般的に開示される項目は次のとおりです。
- 年齢、身長、体重、血液型
- 学歴・職業
- 既往歴・家族歴
- 性格や趣味の自己申告
- 子どもの有無
- 国・人種(海外ドナーの場合)
匿名のままプロフィール情報だけを見て選ぶ国(台湾、スペインなど)と、写真や直接面会まで可能な国(アメリカの一部)があります。日本人ドナーを希望する場合は、国内完結型のエージェントが日本人ドナーを多数登録しているケースが多いです。
マッチング期間は、ドナーの希望条件によって1か月で決まることもあれば、半年以上かかることもあります。
Step7 夫の精子採取・凍結保存
ドナーが確定したら、夫の精子を採取します。海外渡航する場合は、現地クリニックで採取するパターンと、日本で採取して凍結精子を輸送するパターンの2通りがあります。
国内完結型のエージェントを利用する場合は、提携する国内クリニックで採取し、そのまま受精・凍結胚作成までを国内(または提携先)で行います。
採取自体は1日で完了します。
Step8 ドナーの卵巣刺激・採卵・体外受精
ここからはドナー側のステップです。ドナーは約2週間、排卵誘発剤(卵巣刺激)を投与し、複数の卵子を成熟させます。そのうえで採卵手術を受け、採取された卵子と夫の精子を体外受精させて受精卵をつくります。
受精卵は通常、5〜6日間培養して胚盤胞まで育てた段階で凍結保存します。この段階で、希望すれば着床前遺伝学的検査(PGT-A)を実施し、染色体数に異常がない胚を選ぶこともできます。
Step9 胚移植のための渡航・帰国
凍結胚が用意できたら、いよいよ移植です。
海外で移植する場合、ご夫婦で現地に渡航し、3泊5日から1週間程度の滞在で移植から経過観察を行います。台湾、アメリカ(ハワイ、カリフォルニア)、ジョージアなどが、日本人が選ぶ代表的な渡航先です。
国内完結型を選んだ場合は、海外で作成した凍結胚を日本に輸送し、国内の提携クリニックで移植します。渡航のための仕事の調整や時差の負担がない点は、現役世代にとって大きなメリットです。
Step10 妊娠判定・経過観察・出産
移植から約2週間後、血液検査で妊娠判定を行います。妊娠が成立したら、通常の妊婦健診の流れに入ります。出産まで約9か月。出産する病院は、お住まいの近くの一般病院で問題ありません。
ここで法的に大切なのは、日本では「出産した女性がその子の母」と定められていること。卵子提供で生まれた子は、戸籍上は出産した妻の実子になります。詳しくは法務省の生殖補助医療法の解説ページが参考になります。
期間の目安|どれくらい時間がかかるのか
「申し込んでから妊娠まで、どれくらいかかりますか?」これは、私が経験者の方からも、これから検討する方からも、いちばんよく聞かれる質問です。
選択する治療形態ごとに、目安をまとめます。
国内(JISART認定施設)で受ける場合
倫理委員会での個別審議と心理カウンセリングが必須のため、申込から治療開始まで最短でも約1年かかります。ドナーが姉妹や友人など有縁の方に限定される点も、期間を左右します。
2023年1月時点で約70組の夫婦が国内で出産しているという報告がありますが、実施件数の絶対数は限られているのが現状です。
海外渡航で受ける場合
エージェントによりますが、申込から1回目の渡航まで2〜3か月、その後採卵を経て胚移植まで約3〜4か月が目安です。妊娠判定までトータルで6〜9か月を見ておくと現実的です。
国内完結型(精子・受精卵輸送)で受ける場合
海外で受精卵を作成し、日本に輸送して国内クリニックで移植する仕組みです。渡航スケジュールに左右されないため、海外渡航型より工程が短くなる傾向にあります。
申込から移植まで4〜6か月が目安です。
費用の目安|国・プラン別の相場感
費用は、選ぶ国とプランによって大きく変わります。あくまで2026年時点の概算ですが、目安として整理しておきます。
| プラン | 総額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 国内(OD-NET経由) | 約80〜100万円 | ドナーは無償。実施施設・ドナー数とも限定的 |
| 国内完結型エージェント | 約260万円〜 | 渡航なし、医療コーディネート費込み |
| 台湾 | 約200〜310万円 | 完全匿名、ドナー数豊富 |
| ジョージア | 約300〜500万円 | 渡航・滞在費を含む |
| アメリカ | 約500〜1,200万円 | ドナーの選択肢が最も広い |
注意点として、上記には為替変動・追加検査費・薬剤費・予備の凍結胚作成費・通訳費・現地での滞在費が含まれない場合があります。見積もりを取るときは「総額でいくらか」を必ず確認してください。
また、第三者の卵子を使う生殖補助医療は、現在のところ公的医療保険の適用外です。自費治療となるため、家計への影響をシミュレーションしておくことが欠かせません。
日本と海外、どちらで受けるか
費用と期間だけを見ると海外の方が選びやすいように感じますが、判断材料はそれだけではありません。私が取材した経験者の方々の声をもとに、それぞれの特徴を整理します。
日本国内で受ける場合の特徴
JISART認定施設での治療は、心理カウンセリング・熟慮期間・倫理委員会審査などの体制が整っており、子どもへの告知や出自を知る権利についても、医療側の議論が積み重なっています。
一方、ドナーが有縁者に限られる、実施施設・件数とも少ない、待機期間が長いといった課題があります。業界全体の倫理的な方向性は日本産科婦人科学会の倫理に関する見解・指針一覧からも確認できます。
海外で受ける場合の特徴
ドナー数が豊富で、選択肢の幅が広いことが最大の特徴です。台湾は完全匿名で費用も抑えやすく、アメリカは選択肢の自由度が高い、ジョージアはコストパフォーマンスに優れる、といった国別の傾向があります。
ただし、現地での通訳・契約・医療面のフォローが必要なため、信頼できるエージェントを介すことが事実上の前提になります。
国内完結型という第三の選択肢
最近増えているのが、海外で作成した受精卵を日本に輸送し、国内クリニックで移植まで完結させる「国内完結型」のプログラムです。渡航回数を減らせるため、仕事を続けながら治療を進めたい現役世代に選ばれています。
代表的なエージェントには複数の選択肢がありますが、日本人ドナーの登録数や提携クリニックの体制、運営年数を比較するとイメージがつかめます。実際の利用者の声や雰囲気を知りたいときは、たとえば卵子提供エージェント「モンドメディカル」の評判や日々の発信が見られる公式Instagramアカウントのような、運営会社の発信チャネルを覗いてみるのも判断材料になります。
法律と制度を知っておく|2026年時点の最新情報
卵子提供は医療面だけでなく、法律と制度の理解も欠かせません。2026年時点の状況を整理します。
生殖補助医療法(2020年)で決まったこと
2020年12月に成立した「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」では、卵子提供で生まれた子について大きく2つのことが定められました。
ひとつは、他人の卵子を用いた生殖補助医療で子を懐胎・出産した女性が、その子の母であるという規定(第9条)。もうひとつは、他人の精子を用いた生殖補助医療で生まれた子について、夫は嫡出否認できないという規定(第10条)です。
これにより、卵子提供で生まれた子は、戸籍上は出産した妻の実子として記載されます。実務上の根拠が明確になった意味は大きい一方、ドナーの匿名性、子の出自を知る権利、情報管理体制については規定されていません。
特定生殖補助医療法案(2025年)は廃案
2025年2月、ドナーの管理や情報開示のルールを定める「特定生殖補助医療法案」が国会に提出されました。しかし審議入りが見送られ、2025年6月に事実上の廃案となっています。
2026年6月時点で、卵子提供を直接規律する包括的な法律は2020年法以外には成立していない、というのが正確な現状です。
出自を知る権利についての議論
子どもが将来、自分が卵子提供で生まれたことを知る権利、ドナーの情報にアクセスする権利については、国内でも議論が続いています。
2025年法案では「成人後(18歳以降)、身長・年齢・血液型などの非特定情報は開示義務化、氏名等はドナー同意があれば開示」という設計でしたが、患者団体の調査では71.7%が「不十分」と回答しています。
この点をどう受け止め、子どもにどう向き合うかは、夫婦で時間をかけて話し合う価値のあるテーマです。
エージェント選びで失敗しないための7つの判断軸
最後に、エージェント選びで後悔しないための判断軸をまとめます。私が複数のエージェントに取材し、経験者の話を伺った中で、共通して大切だと感じたポイントです。
- 日本法人として運営されているか(日本国内の問い合わせ窓口があるか)
- 契約を急かしてこないか(「今だけ」「今月中に」を多用するところは要注意)
- リスクやデメリットを正直に説明してくれるか
- 採卵失敗時の補償制度があるか(ドナー変更や返金規定)
- 提携クリニックの情報を公開しているか
- 不妊カウンセラーや臨床心理士が在籍しているか
- 運営年数と実績数を公開しているか
加えて、最近はSNSやウェブサイトでの発信内容も判断材料になります。日々の投稿に誠実さがあるか、医学的に偏った主張をしていないか、利用者目線の情報を出しているか。こうした点も、長く付き合うパートナーを選ぶ意味で見ておくとよいでしょう。
子どもへの告知(テリング)について考えておく
最後に触れておきたいのが、子どもへの告知の話です。
卵子提供で生まれたお子さんに対して、いつ・どう・どこまで伝えるか。これは制度の問題ではなく、家族のコミュニケーションの問題です。
当事者団体である「ふぁみいろネットワーク」では、子に出自を隠さず、愛にあふれる粘り強い親子の対話を重ねることを基本姿勢として推奨しています。告知後のご家族のアンケート結果や、子育てのヒントをまとめたハンドブックも公開されています。
正解はひとつではありません。ただ、治療を始める前から「いつか伝える」前提で準備しておくと、後で迷いが少なくなると、経験者の方々が口をそろえておっしゃっていました。
まとめ
卵子提供を受けるまでの流れを、初回問い合わせから出産まで時系列でお伝えしてきました。
要点を振り返ります。
- 全体の流れは10ステップ。標準的に申込から妊娠判定まで6〜9か月
- 国内JISART認定施設は要件が厳しく1年以上、海外渡航型は3〜6か月、国内完結型は4〜6か月が目安
- 費用は80万円から1,200万円超まで幅広く、選ぶ国・プランで桁が違う
- 2020年法で親子関係は明確化されたが、2025年法案は廃案。出自を知る権利の議論は継続中
- エージェント選びでは「契約を急かさない」「リスクも説明する」「補償制度がある」を最低限の判断軸に
- 子どもへの告知は、治療開始前から考えておく価値がある
選択肢が複数あるということは、それだけ自分たち夫婦に合った道を選べるということでもあります。ご自身のペースで、信頼できるパートナーと一緒に、納得のいく決断を重ねていけたらと願っています。
