人が集まる会社と集まらない会社の違い。採用担当より先に経営者が見直すこと

「求人媒体を変えたら、応募は増えますかね」
中小企業の社長さんから、いちばんよく受ける相談がこれです。
はじめまして、早川修平と申します。
製造業向けの技術者派遣会社で法人営業を9年、その後、東京本社から離れた大阪支店の支店長を8年務めました。
いまは独立して、中小企業の組織づくりや管理職の育成をお手伝いしています。
媒体を変えて応募が増えることは、たしかにあります。
ただ、入ったあとに辞めていく会社は、しばらくするとまた同じ相談に戻ってきます。
この記事では、支店長時代の失敗と公的な調査データをもとに、人が集まる会社と集まらない会社の差がどこで生まれているのかを整理します。
採用担当の頑張りより手前で、経営者にしか直せないところの話です。
目次
応募が来ないとき、最初に疑われるのは採用担当
支店長になって2年目までの私は、人が定着しない理由を本社の採用チームのせいにしていました。
「もう少しまともな人を回してほしい」と、本気で電話したこともあります。
その間に、私の下で働いていた若手が2人辞めました。
あとで人づてに聞いた退職理由は「支店長が細かすぎて、何を任されているのか分からなかった」。
採用の問題ではなく、受け入れる側の問題でした。
小さい会社ほど、若手が残らない
厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を見ると、就職して3年以内に辞めた人の割合は、事業所の規模が小さいほど高くなっています。
| 事業所規模 | 高校卒 | 大学卒 |
|---|---|---|
| 5人未満 | 63.2% | 57.5% |
| 5〜29人 | 54.6% | 52.0% |
| 30〜99人 | 45.2% | 41.9% |
| 100〜499人 | 36.7% | 33.9% |
| 500〜999人 | 29.9% | 31.5% |
| 1,000人以上 | 26.3% | 27.0% |
従業員30人未満の事業所では、大卒の新人のおよそ半分が3年もたずに辞めています。
帝国データバンクの調べでは、2025年度の人手不足倒産は441件で過去最多でした。
そのうち、従業員や幹部の退職がきっかけになった「従業員退職型」も118件で過去最多です。
小さな会社にとって、1人辞めることの重さは求人広告の出来とは比べものになりません。
人が集まらない会社と、人が辞めていく会社は、たいてい同じ会社です。
辞めた人の話は、元同僚や知人、口コミサイトを通じて、次に応募してくれたかもしれない人に届きます。
辞めた人は何を理由にしているか
では、辞めた人は何を理由に挙げているのでしょうか。
公的な調査を2つ見てみます。
転職者が前の会社を離れた理由
厚生労働省が2026年9月に公表した令和7年転職者実態調査では、自己都合で前の会社を辞めた人の理由(3つまで選択)が次のように並んでいます。
- 賃金が低かったから(25.5%)
- 会社の将来に不安を感じたから(25.2%)
- 満足のいく仕事内容でなかったから(24.7%)
- 労働条件(賃金以外)がよくなかったから(23.4%)
- 人間関係がうまくいかなかったから(22.2%)
- 能力・実績が正当に評価されないから(18.9%)
私が気になったのは最後の項目です。
前回2020年の調査では15.3%でしたから、5年で3.6ポイント増えています。
評価に納得できずに会社を離れる人は、じわじわ増えているようです。
若手が最初の会社を辞めた理由
若手に絞ると、傾向が少し変わります。
厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査では、初めて勤めた会社を辞めた理由は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」28.5%、「人間関係がよくなかった」26.4%、「賃金の条件がよくなかった」21.8%の順でした。
しかも勤続1年未満で辞めた人に限ると、最も多い理由は「人間関係」です。
入社して最初の1年、誰とどんな関係を築けたかで、残るかどうかがかなり決まっているわけです。
退職面談で聞いた理由は、本音とは限らない
もうひとつ、経営者の方にぜひ知っておいてほしい調査があります。
エン・ジャパンが2024年12月に公表した転職経験者向けのアンケート(回答3,780名)では、退職を伝えるときに本当の理由を「伝えなかった」人が44%いました。
会社に伝えた理由でいちばん多かったのは「新しい職種にチャレンジしたいため」(31%)です。
一方、本当の理由を伏せた人に聞くと、最も多かったのは「職場の人間関係が悪いため」(38%)でした。
「前向きな理由で辞めていったから、うちに問題はない」と考えている社長さんは、一度疑ってみたほうがいいかもしれません。
私の部下も、退職の面談では「やりたいことが見つかった」としか言いませんでした。
ここまで並べた理由を見返すと、採用担当が自分の裁量で変えられるものはほとんどありません。
賃金、労働時間、会社の将来、評価、職場の人間関係。
どれも経営者か、経営者が任命した管理職の領分です。
少し救いのある数字もあります。
先ほどの転職者実態調査で「いまの勤め先を選んだ理由」を見ると、トップは「仕事の内容・職種に満足がいくから」40.2%、次が「自分の技能・能力が活かせるから」38.4%でした。
「賃金が高いから」は18.8%にとどまります。
給料で大手に勝てない会社にも、選ばれる余地は十分に残っています。
採用担当より先に、経営者が見直したい4つのこと
データと自分の失敗を突き合わせて、経営者が自分で手をつけたほうがいいと感じていることを4つ挙げます。
会社がこの先どうなるかを社員に話しているか
「会社の将来に不安を感じたから」が25.2%というのは、賃金とほぼ同じ重さです。
社員は、社長が思っているよりずっと会社の行く末を気にしています。
大阪支店にいたころ、本社の方針が変わっても、支店に届くのは数週間遅れの決定事項だけでした。
メンバーから「うちの支店、なくなるんですか」と聞かれて、答えに詰まったことがあります。
立派な中期経営計画でなくてかまいません。
来年どんな仕事を増やしたいのか、そのために誰に何を期待しているのか。
年に数回、社長の口から直接話すだけでも、不安の量はかなり変わります。
たとえば朝礼や全体会議で、こんなふうに話すだけでも十分です。
来年は、いまの取引先のうち2社と新しい仕事を始めたいと考えています。
そのために、現場のリーダーをあと2人育てたい。
候補になりそうな人には、秋から少しずつ新しい役割をお願いしていくつもりです。
数字の細かさより、社員が「自分はこの先どこにいるのか」を思い描けることのほうが大事です。
評価の基準を本人に説明できるか
若年者雇用実態調査では、若手の定着のために何らかの対策をしている事業所が73.7%ありました。
ところが、その中で「昇格・昇任基準の明確化」に取り組んでいるのは30.5%です。
「職場での意思疎通の向上」(59.7%)の半分ほどしかありません。
私自身、支店長になったばかりのころは、評価面談で「なぜこの評価なのか」をきちんと説明できませんでした。
数字が良かった人を上げ、そうでない人を下げる。
それだけです。
売上に直接つながらない仕事を黙って引き受けていた人ほど、面談のあと表情が曇っていました。
辞めた2人のうち1人は、まさにそういう人でした。
評価表を作り直す前に、まず「この等級に上がるには何ができればいいか」を1枚の紙に書いてみてください。
書けなければ、社員にも伝わっていません。
私が支店長時代に使っていたメモは、項目を3つに絞っただけの簡単なものです。
- 任されている仕事の範囲(例:取引先3社の窓口を1人で持てる)
- 結果として求める水準(例:担当先の契約更新率)
- 結果に表れにくいが見ている行動(例:後輩の相談に乗っている、トラブルを早めに共有している)
3つ目を書いておくと、数字に出ない頑張りを拾いやすくなります。
入社1年目の人間関係を現場任せにしていないか
1年未満で辞める理由の最多が人間関係だというのは、配属先の上司や先輩との相性がそのまま離職につながっているということです。
現場の管理職は自分の仕事で手いっぱいで、新人のことは「様子を見ている」くらいになりがちです。
私が支店長時代の後半にやっていたのは、単純なことでした。
- 入社から3か月は、週1回15分だけ新人と話す時間を固定する
- 直属の上司とは別に、年の近い先輩を相談相手として付ける
- 面談では仕事の出来ではなく「困っていること」だけを聞く
これで辞める人がゼロになったわけではありません。
それでも、入社1年以内の退職ははっきり減りました。
職場の実態を応募の前に見せているか
人が集まらない会社の求人票は、仕事内容と給与は書いてあっても、働き始めてからの様子がほとんど分かりません。
新卒などを対象に募集する企業には、若者雇用促進法で職場情報を提供する仕組みが定められています。
厚生労働省の職場情報の提供制度によると、幅広い情報提供は努力義務で、応募者などから求められた場合は、次の3つの類型それぞれについて1つ以上の情報を出すことが義務になります。
| 類型 | 主な項目 |
|---|---|
| 募集・採用に関する状況 | 直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数、平均勤続年数 |
| 職業能力の開発・向上 | 研修の有無と内容、メンター制度、自己啓発支援 |
| 職場定着の取組 | 月平均の所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数、育児休業の取得状況 |
中途採用が中心の会社でも、この項目はそのまま自社の点検表として使えます。
離職者数や残業時間を出すのは怖いかもしれません。
それでも、あとで「聞いていた話と違う」と辞められるよりは、ずっと傷が浅くて済みます。
厚生労働省の職場情報総合サイト「しょくばらぼ」では、他社がどんな情報を公開しているかも見られます。
同じ業界の数字と見比べてみると、自社の立ち位置がよく分かります。
「採用力は組織の魅力を映す鏡」という言葉
このテーマを考えていたとき、人材派遣や求人メディアの事業を手がける株式会社エース、キヨウグループの代表・関井圭一氏の考え方を紹介したページを読みました。
そこでは、優秀な人材が集まる企業は採用活動そのものが優れているというより、経営理念が明確で、公平な評価制度や働きやすい環境があるから人が集まる、という関井氏の考えが紹介されています。
採用・定着・組織づくりはひとつながりのもので、採用力は組織の魅力を映す鏡だ、という見方です。
派遣の営業をしていたころ、「いい人を紹介してほしい」と言う取引先ほど、紹介した人が長続きしないことがよくありました。
人を送る側にいたからこそ、受け入れる会社の中身がそのまま結果に出ることを、何度も見てきたのだと思います。
採用と定着を分けずに考える視点は、関井圭一氏の組織づくりについてまとめたページで読めます。
今週からできるセルフチェック
最後に、経営者の方が自分で確かめられる項目を並べておきます。
「いいえ」が多い項目から手をつけてみてください。
- 直近1年に辞めた人の本当の理由を、自分の言葉で説明できる
- 来年どんな会社にしたいかを、この半年で社員に直接話した
- 昇給や昇格の基準を、社員に紙1枚で渡せる
- 入社3か月以内の社員と、定期的に話す人が決まっている
- 月の平均残業時間と有給の取得日数を、求人票や採用ページに書ける
- 求人票に、給与以外の「この会社で働く理由」が書いてある
まとめ
人が集まる会社と集まらない会社の差は、求人票や媒体選びより前のところで生まれています。
辞めた人が挙げる理由は、賃金、会社の将来、仕事内容、労働条件、人間関係、評価。
どれも採用担当ひとりでは動かせません。
裏を返せば、社長が動けば変えられることばかりです。
会社の行き先を話すこと、評価の基準を言葉にすること、新人の最初の1年を見守る仕組みを作ること、職場の実態を先に見せること。
どれも大きな予算はかかりません。
私も支店長として、2人辞めさせてからようやく気づきました。
媒体を変える前に、まずは自社の中を見直すところから始めてみてください。



